野田彩子のトークショーに行きました(201103)

ダブル、読んでいますか?

小学館傘下のWeb媒体「ヒーローズ」で連載されている、野田彩子による演劇漫画です。
主人公宝田多家良と彼を支える鴨島友仁、彼らを取り巻く業界の波風がテンポよく、しかし鋭く抉り抜かれています。
単行本は3巻出ており以下続刊。ことあるごとに全話無料公開されているので、機会を見つけてぜひ読んでみてください。今でも1〜5話と最新話は全体公開されています。

そんな3巻の刊行記念でトークショーが開催されましたので、本日行ってまいりました。
ポンコツ読者なので「トークショー! 文化の日! 会場は都内ねハイ申し込んだ!!」した結果、昨日寝る直前まで時間も詳しい場所も行き方も調べ損ねていたし、サイン会が併設なのも受付で係員に「サイン会に参加されますか?」と聞かれて知った。

作中で轟九十九という男がいまして、彼は宝田多家良の初めてのドラマ出演からたびたび共演するという役回りの先輩俳優になります。
漫画公式は以前Web上で公開質問を募集していまして、その折に野田彩子は「いろいろな漫画で1人はいてほしい顔」という形で彼を表現しておりました。
他には「顔が濃い」とか、「スカーフみたいな柄のシャツを着てそう」とか、そういう角度で攻めてきてくれるので、なんかもう外見が…好きです……の気持ちになりつつも、もちろん内面もめちゃくちゃ好きなので、今回お願いして描いていただきました。

みんなゆるい顔してるのに1人だけ顔の圧が強い男がいませんか? 愛しました。

設定上、彼は子役時代から業界に足を踏み入れており、またそのキャリアの中でも山谷がありつつ、演劇の歴史や技法は彼なりの哲学があって学び吸収し今の自分を形作っているという自負があるみたいで、演技に関しては結構プライド高めだよな〜というのが私なりの印象です。
現時点での最新話(二十幕)最後でもその片鱗が窺えて、展開は不穏さを醸しておりますが、「役者・轟九十九」の1ファンとしては非常〜に楽しみに思っています。

いや……「役者・轟九十九」のファンには……きっとなれないんですよね。読者は。
だって漫画では演技をしている轟九十九は見られないから。
私が彼についてグッときている、スカーフのような柄の私服も、ことあるごとにめちゃくちゃ声がでかいところも、打ち上げで酒を飲んで額まで真っ赤にするところも、ダル絡みしがちなところも、彼のプライドの片鱗も、全て舞台の外で、役者仲間に見せてる顔じゃないですか。
それってファンには絶対見えないものなんですよね。
仮に私がダブルの世界の一般人だったとしても、あるいは逆にこの現実世界で轟九十九が役者をやっていても、きっと私は彼に出会えていないだろうし、推すこともないんだと思います。
言い換えれば、私は役者としての人生を見せてくれるダブルの構造における轟九十九を愛しているだけであって、役者としての轟九十九を愛せるかどうかという問いにおいては、不可能であるというのが正解に限りなく近い答えのかもしれません。

それにしても二十話の轟九十九、最高だな……。以前共演したときに炎上したアイドル出身の女性俳優のファンから今では「気のいいおじさん」扱いされてると知ってショック受けて大声で喚き散らかしてるコミカルさから一転、役を下ろされたことに対してネガティブな感情を隠しもしない(どんな感情なのかは次回更新で明かされるのではないかと信じているのですが……)この温度差。
漫画表現において感情の振れ幅が大きい男って魅力的じゃありませんか?

まあ、トークショーではこの辺の話は一切なく、3巻の封入ペーパーにまつわる話題を中心に、作中で取り扱っている/取り扱いたいモチーフの原型になる映画や小説などのお話も多く、野田彩子の思考にしばし寄り添うような時間を楽しませていただきました。

ペーパーに関して「書店によって異なるペーパーが封入される、あるいは封入されていない場合もあるという性質上、見た人とそうでない人で作品に関して得られる情報に格差が発生してしまうのはよろしくないのではないか」というような感覚をお持ちのようで、コンプ癖のあるオタクの習性をよく理解されているなあというか、多分ご本人も強火めのオタクなんだろうなと勝手に思いました。いや、言ってましたね。ご自分で。確か。

新井煮干し子というBL名義もお持ちで(というか私自身がBLコミックスの「渾名をくれ」から入ったのですが)、男同士の確執を描くに長けておられるのでそちらもぜひ読んでほしいです。

で、トークショーでは「野球回のある作品は名作」という概念を強く推されておりまして、例としては同席されていた担当さんからは「ハルヒ」「フリクリ」が挙げられ、野田彩子本人は「おジャ魔女どれみ」のOVAを例に出しておりましたが、あの〜あるんですよね。野球回が。アイシールド21にも。
(トークショーではダブルで野球回をやるとすればポジションはどうなるだろう? というトピックが出まして、宝田多家良×鴨島友仁のバッテリーが鉄板では? からの黒津監督にピッチャーをやってほしい、鴨島とサインに首振る振らないでバチバチにやってそう、怖いな〜という話から、ピッチャーから下ろされた宝田がレフトに回されたり、ファーストミットが似合いそうだからとファーストに置かれた轟九十九が宝田の実は体が柔らかいんだという設定を受けてファーストにコンバートされたあおりを受けて花形ポジション・ショートに転換になるなどの経緯を辿り、オタクみんなショート選手好きだろの自説を立てているオタク的には感動の念で天を仰ぐなどしておりました)

いや、アイシールド21なんですよね。
私がハマりたてだった頃、ピクシブで二次創作をいろいろ見て回っていたときに、細川一休と金剛阿含の漫画同人誌がWeb再録されていたんですよ。もちろん今でも見ることができます。
内容すっごく良くて、人間2人を結ぶのに一元的な愛だの肉体関係だのの話に終始せず、キャラクターの人生を俯瞰してみているような話運びと、重厚な雰囲気漂う画面作りにすっごく感動した作品があって、今でもたまに読み返してしまうくらい好きになってしまったんですよ。
金剛阿含も細川一休もいいキャラクターだよな、とか。
金剛阿含から細川一休への感情ってそういえば考えたことなかったなあとか。

で、それを掲載しているアカウント名が「新井」さんとおっしゃるんですけど。

気づいた時に私はひっくり返ってしばらく寝ました。
脳が情報を処理しきれなかったので。

野田彩子のTwitterを遡ると、金剛阿含を「あーちゃん」と読んでいるTweetとか出てきて普通に面白いです。

というわけで、野田彩子および漫画ダブルの今後ますますのご発展とご多幸を祈念しまして、本日のブログの締めとさせていただきます。
本日は本当にありがとうございました(虚空に向かって叫ぶ魚類の絵文字)。